東京地方裁判所 昭和51年(ワ)5021号・昭52年(ワ)3726号 判決
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【説明】
本件の事実関係の概略は次のとおりである。
原告は、本件土地の所有者であるが、右土地の賃借人であつて、その地上に本件建物を所有していた被告は、本件建物の所有権登記を訴外者名義に移転し、原告は訴外者からこれを買得してその登記を経由したうえ、被告に対し、所有権に基づいてその明渡しを求めた。これに対し被告は、訴外者に対する本件建物所有権の移転は、譲渡担保を原因とするものであつて、訴外者は、右建物所有権を取得するについては被告に対し清算義務を負うものであり、訴外者から本件建物所有権を承継した原告は、右清算義務を承継したとして、同時履行の抗弁を提出した。判決は、右の事実関係を認めたうえ、次のとおり判断する。
【判旨】
二同時履行の抗弁について、
1 被告は、原告が川井テレビの清算義務を承継したことを前提に同時履行の抗弁権を主張する。
ところで、譲渡担保権者から譲渡担保の目的物を譲り受けた者が、右担保権者が担保権設定者に対して負う清算義務を承継する場合があるかどうかの問題はさておき、少くとも、右譲受人が譲渡担保であることを知らなかつたときは、譲受人において清算義務を承継しあるいは担保権設定者から同時履行の抗弁権をもつて対抗されることはないと解すべきである。
2 <証拠>によれば、次の(一)むいし(四)の事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。
(一) 川井武夫は、本件建物の売買契約締結時及びその後においてもしばしば原告に対し、被告の立退きは川井武夫の責任において実現するから、被告と直接話合わないよう申し入れた。
(二) 原告は、当時、被告が、他に住居を求めて本件建物から立退く話を聞いていた。
(三) 原告は、昭和四九年五月一三日、川井武夫から、被告を立退かせる手段として、本件土地の一部(一九坪)について川井テレビのため期間を二年とする賃借権を設定する(川井武夫がこの賃借権を金額に見積り、その額を立退料として被告に提供し、立退を実現する。)よう求められたが、その際、川井武夫は、原告に対し、右の要請を拒否するならば、川井テレビから原告への登記済証を交付しないし、被告とその叔父に当る山内一郎と組み本件建物を他に処分するなどと威迫した。
(四) 右のような状況にあつたため、原告は、昭和四九年九月ころまでは、被告に対し、本件建物を買い受けたことを話さず、また、本件建物の明渡しを求めることもしなかつた。
3 前記2の(一)ないし(四)の事実と前記一4に認定した原告と川井テレビ間の売買の経緯とを総合すると、原告は、被告と川井テレビ間の前記一3の事実関係(譲渡担保であること)を知らなかつたものと推認することができる。
よつて、原告は、川井テレビの清算義務を承継し、あるいは被告から同時履行の抗弁権をもつて対抗されるものということはできず、被告の抗弁は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを採用することはできない。
(川嵜義徳 永吉盛雄 難波孝一)